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東京高等裁判所 平成6年(ネ)529号 判決

控訴人 株式会社太陽企画

右代表者代表取締役 本田和司

右訴訟代理人弁護士 町田宗男

被控訴人 丸磯建設株式会社

右代表者代表取締役 梅村郁

右訴訟代理人弁護士 服部秀一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

理由

一  当裁判所も、原判決別紙物件目録≪省略≫記載の土地について、本件貸金債権を被担保債権とする仮登記担保権の実行として原判決別紙登記目録≪省略≫記載の仮登記に基づく所有権移転の本登記を求める被控訴人の請求を認容するべきものと判断する。その理由は、次に記載するほか、原判決の理由記載と同一であるからこれを引用する。

(当審における控訴人の主張について)

原判決の認定するとおり、前訴である宇都宮地方裁判所大田原支部昭和五四年(ワ)第一七四号所有権移転登記手続等請求事件における被控訴人の請求は、本件貸金債権を被担保債権とする仮登記担保権の実行としての所有権移転の本登記を求める請求であって、所有権移転登記を求める物件の価格は被担保債権の全額に及ばず、右の請求のみでは被担保債権全額の回収はできないものである。しかし、右の請求は、被担保債権のうちの一部の債権のみを主張して仮登記担保権の実行をするものではなく、被担保債権全額の存在を主張して上記担保権の実行をするものであり、あたかも請求債権額に及ばない抵当物件を差押えた場合と同じく、その手続において主張されている債権である限り、当該物件のみでは回収されない被担保債権についても、消滅時効の中断の効力を生じるものと解すべきである。けだし、被担保債権の消滅時効期間の経過前に担保権の実行としての裁判手続が開始されたときは、債務者は、担保権の不存在を裁判手続において主張立証するため、従前保全してきた債務消滅等の証拠を引き続いて保全する必要に迫られるのであるが、このように債務者が証拠を保全しておく必要は、担保物件の価格が被担保債権全額に及ばない場合でも、その手続において主張される被担保債権の全部について生じている。したがって、時効期間の経過前に担保権実行の裁判所手続が開始されたときは、債務者は、その手続において主張される被担保債権の全部について、保全してきた証拠により債務の消滅等の立証をすれば足りるのであって、その立証に代えて時間の経過をもって債務の消滅を認める時効の適用を求める必要はないばかりでなく、証拠保全の困難などの必要もないのに時効の主張を許すのは、公平を欠くものである。このようなことから担保権実行の手続の開始は、その手続において主張される被担保債権の全部について消滅時効の中断事由となるものと解されるからである。

そして、前訴である右の事件では、被控訴人は、被担保債権の全額を主張して、その一部の弁済に代わる仮登記担保物件の所有権移転登記を求めたのであるから、この請求が認容されても、被担保債権全額が消滅することがないことはいうまでもない。したがって前訴の判決にかかわらず、仮登記担保権の実行としての所有権移転登記の請求を認容した原判決になんら問題はなく、この点の控訴人の主張は失当である。

二  したがって、原判決は相当で、本件控訴は理由がなく、棄却すべきものである。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 淺生重機 杉山正士)

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